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この夏のおすすめ映画!笑えて泣ける『キネマの神様』でコロナ疲れの心を癒して
「志村さんのゴウが観たかった」(沢田研二)──初めての映画主演を前に逝ってしまった志村けんへの哀惜の情と作品への愛があふれる舞台挨拶
松竹映画100周年記念作品、山田洋次監督最新作の『キネマの神様』は、当初、志村けんと菅田将暉のダブル主演の予定でした。ところが撮影半ばの2020年3月末に志村けんがコロナで急逝。代役をかつて志村けんと何度もコント番組で共演したこともある沢田研二が『志村さんの思いを抱き締め、やり遂げる覚悟です』と引き受けました。その後も緊急事態宣言による撮影の長期中断、二度の公開延期と、映画以前に劇的な紆余曲折のあった作品です。
8月5日新宿ピカデリーにて公開記念舞台挨拶が行われ、菅田将暉、野田洋次郎、北川景子、宮本信子、そして山田洋次監督が登壇しました。この場で沢田研二の「『志村さんの、お気持ちを抱き締め、やり遂げる覚悟です。』───あの日から新型コロナと共に歩んだ72歳精一杯の姿です。詮ないですが、志村さんのゴウが観たかった。わたしはこの作品を封切り館で“初めて”観ようと思っています」というコメントが発表されました。
劇中で志村けんが歌って有名になった『東村山音頭』を沢田研二演じるゴウが歌う場面があります。山田監督は「あそこで何を歌うかはいろいろ考えました。沢田研二さんとも相談しました。」東村山音頭というアイデアが浮かんで、「あそこでもう一回今は亡き志村けんのことを思い出す。彼に捧げる気持ち。沢田さんに歌ってもらうとぴったりハマってましたね」と思いを語りました。
そのシーンを見学したという菅田将暉は「沢田さんは、ものすごく集中されていて誰も近づけない空気がありました。その姿を一目見ただけで、この作品に臨む沢田さんの思いがあふれ出ていた。沢田さんが映画を観たときにどう思うか気になります。でも同じ人物を演じられて、すごく光栄です」とコメント。
初めての映画主演を前に逝ってしまった志村けん。それぞれの哀惜の情と、悲しみや困難を経ていっそうかき立てられたであろう、この作品への情熱が感じられる舞台挨拶でした。
沢田研二と菅田将暉のダブル主演!一見かけ離れた2人がチャーミングな演技で驚くほど自然につながる
主人公ゴウ(沢田研二)は日々ギャンブルと酒に溺れ、妻(宮本信子)を困らせ娘(寺島しのぶ)に借金の肩代わりをさせ、あげく孫にもたかるようなダメおやじ。しかし若き日のゴウ(菅田将暉)は昭和の映画黄金期の撮影所で、いつか新しい自分の映画を撮るんだという夢を持って生き生きと働く助監督でした。が、ようやく自分のシナリオが認められ、監督デビューを果たす初日に大けがを負って、すべてを諦め映画界から去ってしまいます。失意から立ち直れぬまま年をとってしまったゴウ。しかしあるとき、孫の勇太(前田旺志郎)がゴウの書いた昔のシナリオを読み、リライトして脚本賞に応募しようとゴウに提案、そこからかつての映画への夢が動き出す・・・というストーリー。
映画は現在と過去が交互に展開します。ゴウ以外も主要人物は青春時代と現在の二人一役。撮影所近くの食堂の娘でゴウと恋に落ち後に結婚する淑子が永野芽郁→宮本信子、ゴウの親友で映写技師、今は名画座の主人テラシンが野田洋次郎→小林稔侍。このつながりが驚くほど自然なのです。
特になんといっても菅田将暉→沢田研二。キラキラと夢中で夢を語り、大女優の園子(北川景子)にも可愛がられ仲間に愛されるチャーミングな若き日のゴウ。でもときに自信のなさ、弱さが顔をのぞかせる。
そんなゴウが挫折して失意のまま年をとったらこうだろうという姿を沢田研二が見事に演じます。弱くてダメで厄介な存在、でもどうしても見捨てられない愛嬌や魅力や色気があるのです。自暴自棄の生活を送っているとはいえ、ショボくれてなくて元気いっぱいなのがいい(笑)。照れて慌ててマスクしたまま水を飲んじゃうとか、ちょっとした仕草に声を出して笑ってしまうようなコメディアンぶりもすごい。
「ダメ」もそのまま抱き締めるような夫婦愛、家族愛、友情にこわばった心が癒されていく
長年眠っていたシナリオを蘇らせたことは、壊れかけていた家族をひとつにしますが、これまでの「ダメ」がすべて清算できるわけではありません。そもそも若き日のゴウだって、クランクイン初日に大けがをしたといっても治るけがであって別に映画監督の夢を諦める必要はなかった。ゴウはずっと弱い人間なのです。映画の主人公にはあまりいないけど現実にはいる、弱い、なにかから逃げている人間。この映画はそんな弱い人間をそのまま抱き締めるような温かい夫婦愛、家族愛、友情を教えてくれます。ちゃんとしなくちゃ、立派でなくちゃ、パートナーもそうじゃなきゃ、という呪縛から柔らかく解放してくれます。
そして弱い自分を輝かせてくれるのはやっぱり我を忘れて没頭できるような夢であること、夢があるならば決して手離してはいけないということを、一度は映画を捨てたけれども映画を愛することをやめられなかったゴウの姿に実感します。そんな気持ちにさせてくれるのが、魅力たっぷりに躍動する菅田将暉と沢田研二の演技であり、哀しいほど素朴で優しい永野芽郁と宮本信子、生真面目で温かい野田洋次郎と小林稔侍の演技なのです。
もうひとつ、特筆すべきは銀幕の大スター・園子役の北川景子。伝説の大女優・原節子をモデルに美しく明るい映画黄金期のマドンナのような存在を演じます。園子はあたかも「キネマの女神」といった実は重要な役どころで、映画の夢、光そのもの。もし彼女に説得力がなかったら、ファンタジックで泣かせるラストシーンも台無しになっていたでしょう。誰もが憧れ夢見るようなキネマの女神を北川景子は見惚れるほど素晴らしく体現しました。
コロナ禍で心がささくれ立ちがちな今、笑えて泣けて、なにか大切なもの、温かいもの、キラキラしたもの、美しいものに触れた気持ちになれる『キネマの神様』、ぜひこの夏、映画館で観ることをおすすめします!
2021年8月6日全国ロードショー
監督:山田洋次 原作:原田マハ「キネマの神様」 配給:松竹
出演:沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎、北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子、リリー・フランキー、前田旺志郎ほか
(c)2021「キネマの神様」製作委員会