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【芳麗・女と文化の話】蒼井優とタナダユキが語る、結婚生活と夫婦関係の〝男女愛〟
今月のゲスト:蒼井優さん、タナダユキさん
約10年ぶりに蒼井優さんとタナダユキ監督がタッグを組んだ映画『ロマンスドール』がいよいよ公開。本作は、andGIRL世代にも興味深い〝夫婦関係〟がテーマです。「純愛」は、悲喜こもごもの「結婚生活」を経て「真実の愛」にたどり着けるの?「男女間の嘘や裏切りは、愛にどう作用する?」・・・etc. 本作を観て感じ、考えさせられることはたくさん。昨年、結婚したばかりの蒼井さんと、人間のおかしみや悲哀、人間関係の妙を描く名手・タナダ監督は、どう思いますか?
いちばん近い「絶対的な他人」 夫婦という不思議な関係
芳麗 お久しぶりです! そして、ご結婚おめでとうございます!!
蒼井 ありがとうございます(笑)。
芳麗 タナダ監督と蒼井さんが久々に組んだと聞いて楽しみにしていました。しかも、テーマは夫婦関係!
タナダ 映画化が決まって最初に蒼井さんにオファーしたものの、引き受けてもらえるとは思わなかったです(笑)。前作は『彼女がその名を知らない鳥たち』という素晴らしい作品で、大きな賞も獲られた直後でしたし・・・。次の作品選びには慎重だろうなと思っていたから。
蒼井 10年近く前かな。タナダさんが『ロマンスドール』を小説で書かれた時にすぐに読んで。映画化されたらいいなと思っていました。当時は自分がやらせていただくとは思っていなかったですけど(笑)。
タナダ 主人公は30歳前後。10年前の蒼井さんはまだ20歳過ぎだったしね。当時は、いろんな事情があって映画化はされなかったけど、2年前、再び企画が持ち上がり・・・。
芳麗 巡り合わせですねぇ。
Check!おしゃべりが楽しすぎて 話しながら寝落ちする夫婦
芳麗 『ロマンスドール』は期待に違わず素敵な映画でした。ラブドールをモチーフにしつつも、普通に見える若い夫婦の複雑な関係性や葛藤が描かれていて、さりげなく美しく印象的な場面やセリフも多々あって・・・。夫婦関係や結婚について、感じ考えさせられました。
2人 ありがとうございます。
芳麗 なぜ、夫婦関係を主題に?
タナダ まず単純に、これまで描いたことがなかったからです。夫婦って不思議ですよね。絶対的な他人なのに最も身近にいて。関係を続けるには大きな努力を必要とするのに、実際には努力を怠ったり、努力の方向性を間違ったりしたり。
芳麗 ホントですね。
タナダ うちの親も、仲良くない時期もあって「別れれば良いのに」と客観的には思ったけど、結局は別れなかったし(笑)。それって愛なんて美しいものだけではない、何か説明のつかないものが間にあるんだろうなと。
芳麗 あぁ。それって、情だけでもないし。日常をともにすることで溜まっていく澱か、絆か。何だろう?
タナダ ねぇ。その分からないものを描いてみたかったんです。
芳麗 蒼井さんは本作で園子を演じていますが、ご自身も結婚して、夫婦関係に対する考えやイメージに変化はありましたか?
蒼井 結婚前は自分の夫婦像についてイメージしたことがなかったです。人に聞いたり映画や本で知った夫婦の話も「人それぞれだな」と。実際、自分が結婚してもそう。「こんなもんか」と拍子抜けした部分もあるし(笑)。やはり、うちにはうちの夫婦のあり方があるのかなと。
芳麗 地に足ついてる(笑)。
蒼井 いやいや。語れるほど結婚生活も長くないですけどね(笑)。
タナダ 蒼井さんのところは、たくさん喋っていそう。2人ともおしゃべりが大好きでしょ(笑)?
蒼井 はい。とにかく喋ってますねぇ。たいていは、2人とも夢中で喋りながら寝落ちしてる(笑)。
芳麗 あはは、子どもみたい(笑)。
Check!夫婦の間でついた嘘は 墓場まで持っていくのが礼儀
蒼井 ただ、さっき監督がおっしゃったように、どんな関係性の夫婦でも「絶対的な他人」であることは間違いないなぁとも思います。
芳麗 本作の哲雄と園子もそうですよね。毎日そばにいても秘密や嘘を抱えているのが、夫婦だったしますよね。おふたりは、パートナー間の嘘や秘密についてはどう思います?
蒼井 私はまず、自分が嘘つけないからなぁ・・・。顔に出るから、すぐにばれちゃう(笑)。
芳麗 確かに普段の蒼井さんには、そういう印象があります。作品を演じるときはめちゃくちゃすごいのにね(笑)。
タナダ 私は、嘘つくなら、墓場まで持って行って派ですね。最後まで突き通してもらわないと困る。知人のおじいちゃんが病気で倒れて記憶喪失になったんですよ。奥さんが献身的に介護していたものの、彼が唯一、思い出した記憶は自分は浮気していたこと。素直に謝ったらしいけど、奥さんは「もう無理」って。
蒼井 それは悲しすぎる。
芳麗 本作では、裏切っていたのは夫だけじゃなくて、一見、誠実に見える妻にもある秘密があったのが興味深くて。
タナダ 自分がしているひどいことは、相手もやっていると思った方がいいですよね。男の人に限らないけど、自分の悪事は良くても、相手のことは許さない人も多いから。
Check!結婚生活はママゴト?!演じた方がうまく行く
芳麗 もう1つ、本作を観て感じたのは、どれだけ日常を共にしても、人が分かり合うのは難しいということ。夫婦って、もしかして、生涯で最も長い時間を過ごし、最も対話する相手かもしれないのに。その絆は本物なのかわからないし、案外、脆かったりもするし。
タナダ そうですよね。
芳麗 映画の中で、「ママゴトみたいな結婚生活をして」という哲雄の独白がありますよね。あれは納得というか、刺さりました。私は、夫とは無邪気に何でも話せる関係性ですけど。結婚というもの自体は、どこかママゴトっぽいなとも感じます。プレイじみでいるというか。
タナダ 結局、その夫婦同士でしか築けないものがあって、それは本人たちにしかわからないものですけど。周囲からは、イメージとしての夫婦像を漠然と持たれているのかなと。「普通の家庭」とか言いますけど、普通ってないですよね。してみないとわからないし、やはり、それぞれの形や中身があるだろうし。
蒼井 ある先輩夫婦がおっしゃっていたんですけど、「夫婦っていうのは、〝ごっこ〟だから」と。奥さんのことをいちばん好きだと思い込み続けていればいい。実際にそうかどうかはどうでもよくてと、奥様の前でお話されていて、奥様は苦笑していらしたけど(笑)。なるほどなと。
タナダ 〝ごっこ〟だとしても、奥さんが嫌がってしまえば、成り立たない。両方の合意がないと続けられないからね。1人相撲になっちゃう(笑)。
蒼井 夫婦って、いろんな持続のさせ方があるし、終わらせ方があるんだなと。改めて思いますよね。
Check!パートナー選びのポイントは 「この人といるときの自分が好き」
芳麗 2人の話を聞いて、夫婦ってリアルなお互いを捉えつつも、リアルに目を瞑ることも必要なのかなと思いました(笑)。何かと複雑で面倒な夫婦関係において、良い関係を作るにはどうしたら良いと思います?
2人 ・・・難しい!
タナダ あ、そういえば! 蒼井さんが語っていた言葉は大事だなって思います。蒼井さんから直接聞いたわけではなく、ヒャダインさんのSNSを読んだだけだけど(笑)。
芳麗 「『誰を好きか』より『誰といる自分が好きか』が重要」ですね。あれは名言だし、基本かも。
タナダ 私くらいの年齢でもなかなか気づけないことだと思います。
蒼井 私も本で読んだ言葉ですけど(笑)、「この人といるときの自分が好き」っていうのは年々、明確に強くなっているなと。どんどん自分の物差しがはっきりしているし、その物差しを他人には渡せなくなっているからだと思う(笑)。
芳麗 素敵! きっと渡す必要のないないものですよね(笑)。
今月のおすすめカルチャー
『ロマンスドール』タナダユキ監督・1/24全国ロードショー
哲雄(高橋一生)は、ラブドール職人であることを隠して出会った園子(蒼井優)にひと目惚れ。その嘘をついたまま、結婚する。仕事にのめり込むうちに、家庭を顧みなくなった哲雄は、恋い焦がれていたはずの園子と次第にセックスレスになっていく。倦怠が募る中、園子も長らく抱えていた、ある秘密を打ち明ける。「純愛」から始まった結婚。「嘘」を抱えて変容した夫婦関係は、「真実の愛」にたどり着けるのか?
『ロマンスドール』脚本・監督:タナダユキ/出演:高橋一生、蒼井優 他/配給:KADOKAWA /1月24日(金)全国ロードショー
芳麗(よしれい)
NHK山形局のキャスターを経て、文筆業に。女性の生き方にまつわるコラムとインタビューを主軸に、本誌のほか、雑誌、WEBなど多くの媒体などで連載・執筆。著作に「3000人にインタビューして気づいた! 相手も、自分も気持ちよく話せる秘訣」(すばる舎)、「LOVEリノベーション」(主婦の友社)など。好きなものは、旅とご飯とカルチャー全般。
https://fafa-yoshirei.com