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【芳麗・女と文化の話】ハライチ・岩井勇気が語る〝地味な日常〟の味わい方とは?
Check!面白い人や面白いことの背景に大した理由や物語なんてない
芳麗 岩井さんは今、33歳ですよね。本誌読者と同世代!長らくテレビで活躍されているから、アラフォー世代かなと勝手に思っていました。
岩井 よく言われます(笑)。僕らがテレビに出はじめたのは、22歳の時。19歳で澤部と組んで、3年ほどで食えるようになったから、語れるほどの苦労はなくて(笑)。
芳麗 本書にも「生い立ちは超貧乏でもないし、苦労もしていないから、テレビで面白く話せる人生じゃない」とシニカルに書かれていましたよね。Mr.Childrenの桜井さんも昔、近しいことをおっしゃっていました。「平凡な育ちであることにコンプレックスがある」と。
岩井 そうなんですね。その上、僕の場合、芸能界やテレビに憧れすらなかったから、なおさらテレビで話せるような個人的なエピソードがなくて。お笑いは好きだったし、中学時代に澤部とコンビを組んでからは、芸人として生きていこうと決めていましたけど。憧れは皆無だったから、若くしてテレビに出られた時も、特に嬉しくなかったです(笑)。
芳麗 じゃあ、逆に芸能界とかテレビで生きていくのはキツくなかったですか? それこそ、化学調味料的な味が濃い、極端な場所じゃないですか。
岩井 当初、違和感はあったし、常に胃もたれしていましたけど(笑)。芸人を辞めようと思ったことはないです。お笑いを作ることとか表現することが何より好きだから、テレビはそのための職場として捉えていたのかなぁ。あとは、やっぱり、澤部の存在。あいつはオレと真逆。もともと芸能人もテレビも大好きだから、出始めの頃ははしゃいでいましたけどね。そんな澤部にツッコミ入れつつも、何だかんだ楽しんでやってこれたのかなと思います。
芳麗 幼なじみですもんね。本書でも澤部さんについて分析されている箇所が時に深くて面白かったです。
岩井 澤部は、「ものすごく綺麗にラッピングされたプレゼント」って書いたところですか?
芳麗 はい。澤部さんは外側から見ると万能プレイヤーだけど、実は中身は〝無〟な人であると。売れっ子だけど、観る人に深い興味を持たれないし。〝無〟だからこそ、あらゆるものが吸収できて、万能であると。その視点にハッとして、考えさせられました。
岩井 彼は中身が無いというか、中身が気にならないほど、ラッピングが素晴らしいという意味でもあります。
芳麗 褒め言葉でもあるんですね。それと、私がココを読んで感じたのは、面白い人や面白いことの奥には、理由なんてないのかもしれないなと。さっきの話にも通じますけど、素晴らしい日常を送っている人や派手な経験をしている人が、必ずしも魅力的で面白い人だとは限らないのと同じで。
岩井 そう思いますよ。すごい手品もタネを知るとがっかりってこともあるじゃないですか(笑)。僕は誰にも憧れていないから、すごく面白い人がいたとしても、「どうせ、大層な中身とか理由なんてないでしょう」と思う。
芳麗 ひねくれてる!(笑)
岩井 だから、ゆくゆくは僕だって自分の人生を歌にしてもいいかなって。「中流家庭の生まれで、お笑い養成所は特待生、デビューして3年で売れて、お金にも困ったことはなくて・・・」っていう平凡で恵まれた物語を、竹原ピストルさんみたいにブルージーな曲に乗せて弾き語りたいです(笑)。
Check!結婚も仕事も出産も絶対!と、欲張る女性は少し怖い
芳麗 アラサー世代は人生迷い時な人も多いですけど。岩井さんは、結婚とか、仕事の転機とか悩みます?
岩井 全然、無いですねぇ。昔も今も、結婚願望は全然ないから。思うに、たくさんのものを欲しがりすぎる人ほど悩むのでは?
芳麗 あ、なるほど。
岩井 僕は、そんなに欲深くないですから。そもそも結婚に興味がないのは、結婚したら芸人として言いたいことも言えなくなるの気がして。それは絶対に嫌なんです。仕事では、何のしがらみもなく話したい。自分の人生、お笑いと結婚を両天秤にかけると迷いなくお笑いだから、結婚のことは特に考えないし、悩まない。
芳麗 心の優先順位が明確だと悩まないですよね。女子の場合は出産のなど期限もあるから、「結婚も仕事も両方頑張らなきゃ。そのためには、なるべく急がなきゃ」って思い込んでしまいがちなんです。
岩井 なるほど。でもね、客観的に見れば、何でも欲しがる人って少し怖いですよ。「車も女も金も全部欲しい!」って言っている男って怖いじゃないですか。それと一緒です。「仕事も結婚も子どもも絶対!!」は欲深すぎる。
芳麗 まぁ、そこは反論できません。
岩井 ただ、女性も「もう、30 歳だし」とかは全然思わなくていいと思う。そこまで年齢だけで人を見てないし。何歳でも「私ってまだまだいける」って思っている女性の方が魅力的だと思う。
芳麗 年齢にとらわれていると、不自由ですもんね。
岩井 言葉にすると薄い感じに聞こえるけど、自分に自信を持っている人って素敵ですよね。パリコレとかで堂々と歩いている一流モデルさんって、一般的な美人とかモテるタイプじゃない人もいるじゃないですか。それこそ、40歳でも50歳でも、可愛いものが好きで大切に持っている人とかも良いですよね。自分を大事にしている感じがするから。
芳麗 ホントですね。年齢や常識に関係なく、自分の好きなものを徹底的に大切にするって、自己肯定はもちろん、平凡な人生を楽しむ術かもしれないですね。
今月のおすすめカルチャー
『僕の人生には事件が起きない』岩井勇気(著)
独自の視点とリズミカルな文体で綴られるエッセイは、巧妙で味わい深い。「組み立て式の棚」に振り回されたり、「ファミレスの抹茶アイス」を頼むのに苦戦したりと、ありふれた日常雑記でありながら、読み手に新しい視点や笑いのみならず、哀愁の余韻をももたらす。事件は起きなくても、捉え方次第で人生は何倍も楽しめる。
芳麗(よしれい)
NHK山形局のキャスターを経て、文筆業に。女性の生き方にまつわるコラムとインタビューを主軸に、本誌のほか、雑誌、WEBなど多くの媒体などで連載・執筆。著作に「3000人にインタビューして気づいた! 相手も、自分も気持ちよく話せる秘訣」(すばる舎)、「LOVEリノベーション」(主婦の友社)など。好きなものは、旅とご飯とカルチャー全般。
https://fafa-yoshirei.com