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【芳麗・女と文化の話】山田ルイ53世が語る〝なりたい〟より〝なれた自分〟で生きる方法
Check!「挑戦」なんてしていない 「前向き」になる必要もない
芳麗 処女作『ヒキコモリ漂流記』にも詳しいですが、男爵の人生の最初のつまづきは、中学時代からの6年間の引きこもり生活ですよね。でも、立ち直り、独学で地方の国立大学に受かった。かと思いきや、夜逃げ同然で中退して芸人を目指したり。その後も、何度転んでも諦めずに前進してきたのがすごいなと。
山田 いやいや、逃げただけです(笑)。人間として弱いし、飽きっぽい。何回もリセットしているだけの人生ですね。その時々、何かしらやっていかないと間がもたないから仕方なくというか。生活費のためだけではなく、生きている状態を維持するのが難しくなる。
芳麗 わかります。
山田 引きこもりの弊害ですけど、僕の人生は何度もリセットして、ぶつ切り状態だから、自分史に執着がないんです。普通の人は人生が地続きですよね。小中高、大学、社会人・・・と過去を懐かしそうに振り返っていますけど。僕は昔の写真もないし、過去を愛おしむ気持ちが欠落している。でもそんな人がいても良いんじゃないかと思います。
芳麗 だから、人生リセットすることに恐れがないとも言えますね。
山田 決して人に勧められることではないですけどね(笑)。僕は負けることに慣れているし、成功体験を積み重ねてもいない。守るべき過去がないから、同世代のように「将来の不安」もあまりないのかもしれません。
芳麗 その時々を生きている。
Check!「なりたい自分」にこだわらず 「なれた自分」を生きていく
山田 まぁ、そうです。今思えば、一発っていう売れ方も自分らしいなと。お笑いの実力・能力も問題もありますけど、そもそも、1日に3個も仕事できない人間ですから。毎日テレビ局に通っていたときも、実は半年くらいで飽きてました。意義も感じられなかったし、嬉しくなかった。まぁ、ダメ人間です。そんな人間がテレビで売れ続け、ましてやMCの番組なんて持てるわけがない。それでももてはやされた当時は夢見ましたけど。恐ろしい話です。シルクハットかぶってるクセにMCて!(笑)
芳麗 見たいです(笑)。良いところもダメなところも、自分の資質を受け入れて生きるのは大事だなと改めて感じています。
山田 「なりたい自分」とか「輝かしい成功」は諦めて、「なれた自分でやっていく」ということですよね。僕にはテレビ番組のMCをやる・・・みたいな成功は訪れない。でも今、真似事ですが物書きの仕事があったり、レギュラーのラジオ番組は続いている。望んだ自分では全くないけれども、これが負けた先に辿り着いた「なれた自分」なんだなと。
Check!現実もSNSもキラキラせずとも 生きていけるし、生きていていい
芳麗 どうしたら、負けながらも前向きに「なれた自分」にたどり着いて、受け入れられるんでしょうね。
山田 そもそも「前向きに」なる必要なんかないわけです(笑)。みんなスタート地点でキラキラしなきゃって思いすぎている気がする。SNSの時代で他人の芝生が青く見えるし、正直、キラキラしている(ように見えた)方がお金にもなる。でもね、キラキラしていなくても生きていける。
芳麗 生きていけますね(笑)。
山田 生きて良いんですよ。それから、子どもの頃から「自分の取り柄や向いていることを見つけよう」と言われて育つけど、最悪、何もない人もいますからね。取り柄がないとダメだなんて思い込みを持つと苦しいですよ。縛りが最初にあるから苦しいんですよ。
芳麗 無い物ねだりになりますよね。
山田 だから、さっきも言ったけど、若い頃から負けや失敗をたくさん経験して、飲み込んでおくことなんです。すると、40代くらいになると折り合いがつきます。「自分にはできないことリスト」が蓄積されていくから、その後の選択肢が選びやすくなる。
芳麗 なるほど。
山田 自分の才能を一発で掴めるのは、ごく一部の天才だけ。我々のような凡人は、無限に選択肢があると分からないので。なるべく早くいろいろ試してみるのがいいと思います。
芳麗 ああ、すごくいい話です。どこにいても、折り合いのついている大人は、幸せそうだなと思います。
Check!40歳を超えたら高めておきたい健全な「自己満足力」!
山田 最近思うのは、40歳を超えたら自己満足力を高めたほうが良いですよね。〝自己満〟って悪い意味で使われがちだけど。冷蔵庫のあまりもので美味しいものを作るように、自分の手の中にあるものを楽しむって良いじゃないですか。実はいちばん難しいことでもあるけど。
芳麗 人と比べずに、自分の持ち物を精査して楽しむ?
山田 はい。当社比で勝負ですよ。人と比べると牛丼屋の値下げ競争みたいになってしまう。チキンレースですよ。牛でチキンはややこしいけど(笑)。それよりも自分に集中する方が人生のコストパフォーマンスが良い。人と比べて、妬んだり、嫉んだり。それがガソリンになるのは、若いうちだけ(笑)。40代になると、嫉妬はタバコやお酒と同じ嗜好品。嗜みすぎるとしんどいし、時間がもったいないから、ちょっと自分に集中したいなと・・・これは今、僕も心がけている最中ですね。
今月のおすすめカルチャー
『一発屋芸人の不本意な日常』山田ルイ53世(著)
ブームが去った後の一発屋芸人の日常は、地方営業やキー局の番組で不本意なことに巻き込まれたり、屈辱を味わわされたり。シニカルに繊細に自他を観察。「負け」と自称しつつも、悲壮感は微塵もなく、哀愁と愛とユーモアがにじみ出ていて、生きる意味を考えさせられ、希望が見出せる不思議。
芳麗(よしれい)
NHK山形局のキャスターを経て、文筆業に。女性の生き方にまつわるコラムとインタビューを主軸に、本誌のほか、雑誌、WEBなど多くの媒体などで連載・執筆。著作に「3000人にインタビューして気づいた! 相手も、自分も気持ちよく話せる秘訣」(すばる舎)、「LOVEリノベーション」(主婦の友社)など。好きなものは、旅とご飯とカルチャー全般。
https://fafa-yoshirei.com